第1回
もっと強調してみよう!
口腔の健康管理が持っている社会的な意義・役割

公開日: 2016年6月23日木曜日

定期歯科受診者が考える「定期歯科受診の意義」とは


 歯の喪失は、定期的な機械的歯面清掃と口腔衛生指導により予防可能であると考えられています1)。最近では、歯の健診やクリーニング目的で定期歯科受診する人が増えてきました。
 石田らのWeb調査2)によれば、国民の約40%が定期歯科受診をしているというデータが示されています。歯科医院側も歯科健診のお知らせのハガキを出したり、積極的に定期歯科受診を勧めているところも多いようです。

定期的に規格化された口腔内写真を撮影し、患者さんの口腔内状況を情報提供するシーンは、多くの歯科医院で見られる光景になってきました。(写真協力:河野歯科医院)

 では、定期歯科受診をしている人たちは、どのようなきっかけで定期歯科受診を始めているのでしょうか?
 この石田らの調査において、定期歯科受診をしている人たちに理由をたずねてみると、

  • 安心感があるから(54.4%)
  • 歯科医師や歯科衛生士にすすめられているから(52.6%)
  • 効果を実感しているから(33.2%)

などの回答が得られています。

 また、定期歯科受診することによって実感できた効果として、

  • 口の中の状態についてよくわかるようになった(65.2%)
  • 気になる症状がなくなった(61.1%)
  • セルフケアの技術が向上した(43.3%)
  • 歯科についての知識が向上した(25.7%)

などがあげられています。

 このように、定期歯科受診は歯科医師や歯科衛生士からの働きかけによって安心感を得る目的で始まることが多く、セルフケアに必要な知識や技術の習得に役立っていることがわかります。


定期歯科受診の社会的意義


 上記の石田らの調査結果をみると、歯科医師や歯科衛生士が一生懸命に保健指導や説明をしたことは、定期歯科受診者の心に響いているようです。しかし、一度定期歯科受診を始めたからといって、その習慣がずっと継続するかどうかはわかりません。
 定期歯科受診の習慣を長期にわたって定着させるためにも、歯科医師や歯科衛生士は定期歯科受診の機会ごとに、セルフケアに必要な知識や技術の習得についてだけでなく、定期歯科受診の持つ「社会的意義」についても、患者さんに丁寧に説明すべきと考えられます。

 たとえば、

  • 人は初対面時のように相手の情報を持っていないときには、「歯」や「口もと」などの様子を観察して、相手の人となりを判断すると言われていること3、4)
  • 笑顔には相手との信頼関係を高めたり、知的な感じを与えたり、社会的に前向きな印象を与える役割があること5)
  • 労働に関しても、口もとの外観や口腔の健康管理が仕事に関するパフォーマンス評価や雇用機会に影響する可能性が指摘されていること6、7)
  • ビジネスにおいても、口もとの外観や口腔の健康の管理は自己管理能力として判断されることが多く、歯の手入れの悪い人や見かけの悪い人は、商談相手にあまり良い印象を与えないとされていること8)

などが考えられます。

 これらは、コミュニケーション学の立場からも説明できます。
 コミュニケーション学では、表情や視線、しぐさ、動作、声の質や抑揚、相手との距離、姿勢などは非言語コミュニケーションに分類されており、言語によるコミュニケーションよりも非言語コミュニケーションの情報量が多いことが知られています9)
 口もとの外観や口腔の健康管理もこの非言語コミュニケーションの一種と見なすことができ、きちんと管理しておくことで、その人の持つ知的能力や社会的能力、心理的適応などを非言語によるメタ・メッセージ10)として相手に伝達していると考えられるのです。
(メタメッセージ:あるメッセージがもっている本来の意味をこえて、別の見方・立場からの意味を与えるメッセージのこと)

 歯科医師や歯科衛生士は、口もとの外観や口腔の健康を管理することによって得られる美しさについて、見た目の「審美性」を強調しがちです。しかし、口もとの外観や口腔の健康管理は見た目の問題だけにとどまらず、社会的な役割も大きいはずです。
 歯科医師や歯科衛生士は、口もとの外観や口腔の健康管理が持っている社会的な役割をもっと強調しても良いのではないでしょうか。


参考文献
  1. 杉浦剛,岸光男,相澤文恵,阿部晶子,南健太郎,稲葉大輔,佐藤一裕,米満正美:データマイニングの手法を用いた定期歯科受診者の受診中断に関わる要因の分析.口腔衛生会誌.2011;61:225-232. 
  2. 石田智洋,安藤雄一,深井穫博,大山篤:インターネットリサーチによる歯科定期受診行動に関わる要因についての調査.厚生労働科学研究費補助金(地域医療基盤開発推進研究事業)「歯科疾患等の需要予測および患者等の需要に基づく適正な歯科医師数に関する研究」平成22年度 分担研究報告書.http://www.niph.go.jp/soshiki/koku/oralhealth/juq/jyukyu/docu22/docu22_15.pdf (2016年6月19日最終アクセス)
  3. Eli I,Bar-Tal Y,Kostovetzki I:At first glance: social meanings of dental appearance. J Public Health Dent. 2001;61:150-154.
  4. Newton JT, Prabhu N, Robinson PG:The Impact of Dental Appearance on the Appraisal of Personal Characteristics. Int J Prosthodont, 2003;16:429-434.
  5. Arora V, Gupta N, Dwivedi R, Rathi S:Social meaning and acceptability related with dentofacial attractiveness-a brief review. SADTJ, 2012 ;3:88-91.
  6. Adams GR. Physical attractiveness research, Hum Dev,1997;20: 217-239. 
  7. Pithon MM, Nascimento CC, Barbosa GC, Coqueiro Rda S:Do dental esthetics have any influence on finding a job? Am J Orthod Dentofacial Orthop. 2014 ;146:423-9. 
  8. 筒井昭仁:口腔保健におけるヘルスプロモーションと新たな健康教育.歯界展望,2000;95:1363-1373.
  9. 伊藤孝訓 編著:歯科医療面接アートとサイエンス 改訂版.砂書房.東京.2010.
  10. 下村陽一:実際的コミュニケーションの構造と機能(Ⅰ) ―対人コミュニケーションの概要―.大阪教育大学紀要 第Ⅳ部門 教育科学,2014;62:79-87.

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